仕事を辞めてやった(あるいは限界ってどこだったのかの話)
仕事を辞めてやった。
そのままの意味だ。
こんなとこ辞めてやらあ! って言って、辞めちゃった。
あたしは新入社員だった。
それで、行きたい業界に就職できたからすっごく嬉しかった。
そりゃつらいこともあったけど、やりがいってやつもあったと思う。
そんでじゃあ何で辞めちゃったの、っつったら、まあ一応ありふれた理由がある。
セクハラとパワハラだった。
カルガモのひなみたいに先輩に四六時中べったりして見学したり、お互いに全然興味ないだろみたいな話をやたらに膨らませて上滑り的な会話を移動の車中で話し続けるのは、別に耐えられないほどのことじゃない。
いっぱいの同期の中であたしだけ、異様に任される仕事が多いのも、結構つらかったけど僅かに優越感みたいなのもあった。
でも先輩は、すげえパワハラ野郎だった。
まず何をしても否定される。
仕事のだめだしとかじゃなくて、朝の朝礼のスピーチ内容とか、歩くときにヒールがあるから踵が鳴るとか、日本語の使い方がなんか気が合わないとか、
とにかくあたしが一個何かすると百個ぐらい注意される。
それだけならまだよかった
(よくはね~~~よ)
先輩はセクハラ野郎だった。
恐怖の坩堝・インターネッツでこんなこと言うと、包丁持って突撃してきた人に腹を刺されて殺されそうだけど、あたしはそこそこおっぱいがでかい。
新入社員だし背筋ピンとかしてると、結構めだつ。
そんであたしにとにかくケチをつけたい先輩はそれをいじる。
どういう風にいじるかというと、
「次失敗したら殴られるかおっぱい揉ませるかどっちか選べよ」
と迫ったり、
「早く抱かせろよ」
と迫ったり、
とにかくなんか迫られる。なんだこれ。
一応言っておくとあたしはカワイくない。
カワイくないのにこのありさまって、世の中のカワイイガールズたちは一体どんな修羅の道を歩んで生きているんだろう。生まれた瞬間からでかすぎる十字架を背負って、それであんなにきらきらした瞳をしていられるのってすごくつよい。
めちゃくちゃ尊敬してる。
カワイイ女の子たち、めっちゃえらい。
話がそれちゃった。
どっちかだけならまだしも、あたしは毎日そんな感じで否定されたり書類投げつけられたり肩を抱かれたり迫られたりして、それから帰りの電車に揺られ、遅くに家に帰り、風呂に入り、飯を食い、朝起きて、またクソ先輩に絡まれていた。
正直言って気が狂う。
気が狂うビンゴがあったら全部穴開いてた。
もうシート穴ぼこだらけ。
そんな感じの毎日だったけど、案外つらくなってから長く耐えられていたような気がした。
そりゃー友達と話してるときとかに
「仕事辞めてえ笑」
などという冗談をブチ上げることもあったけど、本気の選択肢としては辞職というのはなかった。
でもいつだって転機というものは偶然訪れる。
ある日、珍しく先輩といっしょじゃない日があり、
一日中先輩の顔もみずに仕事して早めに帰ってなにもつらいことのないまま家に帰って、ドア開けて、リビングについて、
大号泣した。
もう、新生児の時以来の勢いで声を上げて泣いた。
何でなんにもなかったハッピーな日にそんなことになったかというと、
本来あたしの仕事内容は先輩にクッソ絡まれて嫌な思いをするんじゃなかったことを思い出したのだ。
新興宗教でよく洗脳されてその時には分かりませんでした、というインタビューがあるけれど、それってすごくよくわかる。
台風と同じで、まんなかにいる時には分からないものなんだと思った。
あたしはとっくに心折られていて、ただ毎日が怒涛のように押し寄せてきていたからそれを拒絶する暇もなく巻き込まれていただけだったんだ。
波乗りしてると思ってたら、波にさらわれていただけだった。
このままだと、死ぬ。
溺死待ったなし。
まあ、今になってやっと言葉にできるようになっただけなんだけど、
その時あたしの脳に確信めいて走ったものは、大体そういうことだった。
このままだと、死ぬ。
あたしはその晩、親しくなってた総務の女の人に連絡を取った。
仕事、辞めます。と。